日本と韓国が国交を正常化した基本条約の締結からきょう50年の節目を迎える。


両国関係は慰安婦問題や歴史認識問題で冷え込み、隣国同士でありながら、安倍晋三首相と朴槿恵大統領は就任から2年以上経てもいまだに首脳会談を開けない状態が続く。残念というほかない。


ただ、きのうは外相会談がようやく日本で実現し、世界遺産登録問題で前進が見られるなど関係改善の兆しも見え始めた。埋めるべき溝は深いが、行き詰まった外交を打開し、新たな関係に向けた信頼醸成のきっかけにしなければならない。


正常化以降、この50年で日韓関係は曲折を経ながらも、相互依存関係は着実に進展してきた。人の往来は当初、年間2万人余りに過ぎなかったが、今は500万人を超える。貿易総額も年間約9兆円に上り、双方ともに中国、米国に次ぐ第3位の貿易相手国だ。


サッカー・ワールドカップの日韓共催や韓国での日本の大衆文化の開放、日本での韓流ブームなども相互理解を進める役割を担ってきた。

 

歴史問題というトゲ

 

一方で、歴史認識をめぐる問題は解消されず、両国の国民感情をきしませてきた。とりわけ関係改善を阻む大きなトゲとなってきたのは慰安婦問題だ。


1991年、韓国で名乗り出た元慰安婦による東京地裁への提訴がきっかけで浮上し、日本側は河野洋平官房長官談話で旧日本軍の関与を認めた。だがその後、韓国側は誠意を示していないと批判。日本側が基本条約とともに締結した日韓請求権協定で問題を「解決済み」とするのに対し、韓国側は未解決とし、あつれきが続いている。2012年には李明博前大統領が竹島(韓国名・独島)に上陸、領土問題でも対立が深まった。


一方、日本側の姿勢が韓国側を刺激してきたのも事実だ。「侵略の定義は定まっていない」と国会で発言するなど歴史修正主義と受け止められかねない安倍首相の姿勢や、靖国神社参拝、慰安婦問題に関する「河野談話」の検証などが関係改善の機会を遠ざけてきた面は否めない。


韓国では今年、植民地支配解放から70年を迎え、首都ソウル市が慰安婦を象徴する新たな像の設置を計画する動きもある。収まらない反日姿勢に日本政府は不快感を示しているが、冷え込んだ関係を放置していては前へ進まない。

 

朴大統領の軌道修正

 

日本の民間非営利団体「言論NPO」と韓国のシンクタンク「東アジア研究院」が先月発表した共同世論調査では、相手国にマイナスイメージを持つ人は日本で52・4%、韓国では72・5%を占め、両国の国民感情は悪化している。


だが一方で、お互いへの悪感情が続く状況を「望ましくない」「問題だ」と考える人が両国とも7割近くに上り、改善への意欲が強いこともうかがえる。その思いにどう応えていくのか。

朴大統領は先月、対日外交で歴史問題と経済など他の問題を分離する「2トラック」政策を取る方針を表明した。背景には、韓国で経済や安保分野で日本との関係強化を求める声が高まっていることや、改善を促す米国の強い意向があるとみられる。


この軌道修正を受け、2年半ぶりの財務対話や2年ぶりの通商担当相会議、さらに4年ぶりの防衛相会談などが開かれ、関係に変化が見えてきたのは事実だ。この流れを加速させる必要がある。

 

関係の温め直しを

 

きのうの日韓外相会談では、慰安婦問題や、世界文化遺産に登録を目指す「明治日本の産業革命遺産」が議題となった。


首脳会談の前提に慰安婦問題の解決を掲げる朴氏は、問題をめぐる日韓協議に関し「最終段階にある」と表明していたが、今回の外相会談では進展がなかった模様だ。だが、世界遺産の登録では「戦時中に朝鮮人労働者が強制徴用された施設がある」とする韓国側と、年代が異なるとする日本側の間に協力に向けた前進があった。


こうした対話の機運が出てきたことを前向きに受け止めたい。慰安婦や歴史をめぐる問題の解決は容易でなくても、経済、防衛、環境など、互いに協力できる分野はある。そこから一歩ずつ冷えた関係を温め直すことが必要だ。


未来志向の日韓関係を築いていく上で、安倍首相が夏に出す「70年談話」も重要だ。首相は過去の「植民地支配と侵略」への反省やおわびを明記した戦後50年の村山談話を「全体として引き継ぐ」としている。「植民地支配」や「おわび」の文言を盛るかは明らかにしていないが、そこを曖昧にせず明快に語ってこそ日韓新時代への強いメッセージになるはずだ。


先月、「日韓友情ウオーク」に参加した両国の市民らがソウル-東京の全行程を終えた。江戸時代に朝鮮王朝が日本に派遣した外交使節団「朝鮮通信使」の足跡をたどるイベントだ。07年から隔年開催され、国交正常化50年の今年は両国から延べ約2600人が参加した。対立を越える先人の善隣外交の道を、両国の政治家こそ学ばねばならない。